有田正規著『学術出版の来た道 (岩波科学ライブラリー 307)』を読了しました。
- 読了日20211117
- 入手日20211010
- Amazonで購入した。
- 帯なし。
- ソフトカバー。
- 学術雑誌を中心とした学術情報流通の歴史がわかりやすく書かれている。
- この本を読むまで、エルゼビアやシュプリンガーの歴史を知らなかった。
- 注のなかで、参考文献がたくさんあげられている。英語のものが多い。
しかし商業出版社である以上、利益を追求するのは当たり前である。なぜ大学や研究所の図書館は高いと文句を言いながら学術誌を買い続けるのか。需要と供給のバランスはどうなっているのか。本書の目的は、この構造的な問題を歴史的な視点から解き明かすことにある(p.3)
自分がやらなくても他人がやってくれる研究なら、他人にやってもらえばよい。自分にしかできないことをするのが本来の研究者だろう。そして成果の発信や流通をもっと自分たちの手で制御すべきだ(p.146)
- 出版社のWebサイト*1では、次のように紹介されている。
特殊な評価・価値体系を形成してきた学術出版が抱える構造的な問題を、歴史的な視点から解き明かす。
学術出版はその350年を超える歴史を経て、他の産業とはまったく異なる評価・価値体系を形成してきた。出版社が先導する動きに世界の科学が振り回される結果として生じている、学術誌の価格高騰や乱立、オープンアクセス運動、ランキング至上主義、データベースの苦難といった構造的な問題を、歴史的な視点から解き明かす。
- 同じ著者の『科学の困ったウラ事情 (岩波科学ライブラリー)』を合わせて読むと、より立体的に学術情報流通が捉えられると思う。
目次は、次のとおり。
第1章 学術出版とは何か
学術出版の利益率/出版の簡単な歴史
第2章 論文ができるまで
論文の執筆/文献の調査/抄録誌と索引/論文の審査と査読/査読の仕組み/ピア・レビューの導入は1970年代/アインシュタインはピア・レビューが嫌い?/論文校閲と校正/著作権の譲渡/論文の出版と掲載料
第3章 学会出版のはじまり
イングランド王国の『哲学紀要』と学会出版/フランスの学術誌とアカデミー出版
第4章 商業出版のはじまり
エルゼビアのおこり/シュプリンガーのおこり
第5章 学術出版を変えた男
生い立ち、シュプリンガーとの出会い/ペルガモン出版の躍進/冷戦と学術出版/学術誌の需要と価格設定/エルゼビアへの売却
第6章 学術誌ランキングの登場
ガーフィールドのインパクト/鶏舎で始めた『カレント・コンテンツ』/引用索引『SCI』とインパクト・ファクター/書かずんば去るのみ/ISIのその後/トラッチが仕掛けたオープンアクセス
第7章 オープンアクセスとビッグディール
スライスされたパンに次ぐ大発明/図書を失いゆく大学図書館/スパーク連合の挑戦/プロスとPMC/トラッチとBMC/ブダペスト運動、ベセスダ宣言、ベルリン宣言/OAメガジャーナルの誕生/商業化したオープンアクセス/SCOAP3による学術誌のOA転換/商業OA出版の勝ち組
第8章 商業化した科学と数値指標
編集部も読まない学術誌/営利業者と研究者の共生/論文数の急増と多作研究者/被引用数という呪い/サンフランシスコ宣言、ライデン声明/『イーライフ』誌の挑戦/即時オープンアクセスとプランS/学術誌の利益率
第9章 データベースと学術出版
抄録誌のはじまり/『ケミ・アブ』からCASデータベースへ/配列データベースのはじまり/データベースと学術誌/ヒトゲノム計画とオープンサイエンス
おわりに
注
https://www.iwanami.co.jp/book/b591591.html