猫に夢研究所

自分の備忘録を公開している感じです。国立大学法人で大学図書館職員(図書系職員)として働いています。みなし公務員です。

もうすぐ絶滅するというNACSIS-CATの書誌調整について : 「情報源の送付」は著作権上どう解釈すればいいのか

読んだことも買ったこともないけど、タイトルをまねてみた。この『もうすぐ絶滅するというNACSIS-CATの書誌調整について』というタイトルを使うためだけに、この記事を書いたと言っても過言ではない。


目次


もうすぐ絶滅するというNACSIS-CATの書誌調整について

www.nii.ac.jp

CAT2020では、「NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化について(最終まとめ)」の「II. CAT2020以降の運用における「目録情報の基準」の変更について」のポイント6にあるように、「参加館間のレコード調整の廃止」が決定されました。

2020年以降の目録所在情報システムの適用開始日延期(2020年8月3日)について」によって、CAT2020適用開始日が2020年6月1日(月)から2020年8月3日(月)に変更になり、それまでは、次に説明する書誌調整(レコード調整、書誌コントロール*1)という業務があります*2


NACSIS-CATにおける書誌調整とは

NACSIS-CAT*3では、参加館によるオンライン共同分担入力により、各図書館毎の目録作成の重複を防ぎ、目録業務の負担を軽減しています。

CAT2020適用までは、次のような書誌調整という業務を行っています。どのような業務なのか、「NACSIS-CATにおける連絡・調整作業の課題一参加機関から学術情報センターへの報告・質問の分析一」がわかりやすいです。

まず、次のような理由から、連絡を取り合う必要があります。

  • 複数の機関でひとつの目録データベースを作るため、書誌レコードの記述の一貫性を保ち、重複レコードを発生させないためには、参加機関の間で意見の調整を行わなければならないから
  • 書誌レコードが参加機関全体の共有財産であるため、一参加機関の手で勝手に修正・削除することができないから

共同分担方式により総合目録を形成する場合,総合目録の形成に参加する複数の機関の間や,参加機関とデータベースを管理する機関の間で,連絡をとり合うことが必要になる。その理由は,第一に,複数の機関でひとつの目録データベースを作るため,書誌レコードの記述の一貫性を保ち,重複レコードを発生させないためには,参加機関の間で意見の調整を行わなければならないからである。第二に,書誌レコードが参加機関全体の共有財産であるため,一参加機関の手で勝手に修正・削除することができないからである。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcul/40/0/40_325/_pdf

そして、資料の現物並びにそのスキャンデータ又はコピーと書誌レコードとを突き合わせて、「確証作業」を行います。そのため、場合によっては、参加館間で又はNIIへスキャンデータやコピーによる「情報源の送付」が行われます。

参加機関が共有する書誌レコードを修正するには,本当にその書誌レコードが間違っているかどうかを,作成の根拠となった資料と突き合わせて確かめる,いわゆる「確証作業」を行い,各参加機関に連絡し,修正に対する了解をとり,所蔵レコードの付替えを依頼する必要がある。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcul/40/0/40_325/_pdf

確証作業、書誌レコードの修正・削除や所蔵レコードの付替えの依頼・連絡など、これらの業務を「書誌調整」といいます。

このような書誌レコードの修正・削除にともなう,確証作業や,所蔵レコードの付替えの依頼などの連絡は,その書誌レコードを共有する参加機関同士で行われている。また,参加機関からの報告や質問を受けて,学術情報センターが行うこともある。学術情報センターにおいては,これらがひとつの業務として確立されており,「書誌調整」と呼ばれている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcul/40/0/40_325/_pdf


「情報源の送付」は著作権上どう解釈すればいいのか

前述の確証作業のために、参加館間で又はNIIへ情報源をメール(又はFAX、郵便)で送付します。例えば、NIIのWebページには、次のように記載されています。

情報源を同時に送る必要がある場合は,登録した際に表示される,目録情報システム・質問受付画面のハードコピーを表書きにし,情報源をメール(またはFAX,郵便)で送付してください。
(太字引用者)
https://cattools.nii.ac.jp/qanda/menu.php

この目録システムの書誌調整における「情報源の送付」は、著作権上どう解釈すればいいのか気になりました。


著作権法を確認する

第31条(図書館等における複製等)

図書館と著作権法といえば、第31条。「図書館等における複製等」となっていますが、とくに記載はありません。やはり、利用者の求めに応じ行う複写やILL(図書館間相互貸借*4)とは違います。

 (図書館等における複製等)
第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項及び第三項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
 一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部。第三項において同じ。)の複製物を一人につき一部提供する場合
 二 図書館資料の保存のため必要がある場合
 三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料(以下この条において「絶版等資料」という。)の複製物を提供する場合
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048

ちなみに、著作権法第31条第1項の「図書館等」について、大学図書館は、別途、著作権法施行令で定められています。

 (図書館資料の複製が認められる図書館等)
第一条の三 法第三十一条第一項(法第八十六条第一項及び第百二条第一項において準用する場合を含む。)の政令で定める図書館その他の施設は、次に掲げる施設で図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第四条第一項の司書又はこれに相当する職員として文部科学省令で定める職員(以下「司書等」という。)が置かれているものとする。
 一 図書館法第二条第一項の図書館
 二 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条の大学又は高等専門学校(以下「大学等」という。)に設置された図書館及びこれに類する施設
 三 大学等における教育に類する教育を行う教育機関で当該教育を行うにつき学校教育法以外の法律に特別の規定があるものに設置された図書館
 四 図書、記録その他著作物の原作品又は複製物を収集し、整理し、保存して一般公衆の利用に供する業務を主として行う施設で法令の規定によつて設置されたもの
 五 学術の研究を目的とする研究所、試験所その他の施設で法令の規定によつて設置されたもののうち、その保存する図書、記録その他の資料を一般公衆の利用に供する業務を行うもの
 六 前各号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は一般社団法人若しくは一般財団法人その他の営利を目的としない法人(第二条から第三条までにおいて「一般社団法人等」という。)が設置する施設で前二号に掲げる施設と同種のもののうち、文化庁長官が指定するもの
2 文化庁長官は、前項第六号の規定による指定をしたときは、その旨をインターネットの利用その他の適切な方法により公表するものとする。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345CO0000000335


第23条(公衆送信権等)

また、メール又はFAXで送る場合、著作権法第23条の「公衆送信権」が関係しそうです。

 (公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048


第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)

……と、見てきましたが、第30条の4第1項に、次のように書いてありました。太字のところが、NACSIS-CATにおける書誌調整の「情報源の送付」にあたりそうな気がします。

でも、著作物の非享受利用は、人ではなく機械や電子計算機による利用のみを想定している?

 (著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
 二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
 三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
(太字引用者)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048


第47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)

ちょっと変化球、というか的外れか。

第47条の5は、検索エンジン(所在検索サービス)や電子計算機による情報解析を行い、その結果を提供するようなサービス(情報解析サービス)に関するものなのですが、NACSIS-CATを検索エンジンに類似する図書・雑誌専用の「所在検索サービス」と考えて、拡張解釈すればいける? ただし、「当該行為を政令で定める基準に従つて行う者に限る」をどうするかは考えてない。

第47条の5で検索エンジンが許されているなら、書誌調整のための確証作業での利用ならOKでは? くらいにアバウトです。

とりあえず、著作物の軽微利用だとしても、人手を介している点が違う。

 (電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)
第四十七条の五 電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによつて著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者(当該行為の一部を行う者を含み、当該行為を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆への提供又は提示(送信可能化を含む。以下この条において同じ。)が行われた著作物(以下この条及び次条第二項第二号において「公衆提供提示著作物」という。)(公表された著作物又は送信可能化された著作物に限る。)について、当該各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、いずれの方法によるかを問わず、利用(当該公衆提供提示著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る。以下この条において「軽微利用」という。)を行うことができる。ただし、当該公衆提供提示著作物に係る公衆への提供又は提示が著作権を侵害するものであること(国外で行われた公衆への提供又は提示にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであること)を知りながら当該軽微利用を行う場合その他当該公衆提供提示著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 一 電子計算機を用いて、検索により求める情報(以下この号において「検索情報」という。)が記録された著作物の題号又は著作者名、送信可能化された検索情報に係る送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、及びその結果を提供すること。
 二 電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること。
 三 前二号に掲げるもののほか、電子計算機による情報処理により、新たな知見又は情報を創出し、及びその結果を提供する行為であつて、国民生活の利便性の向上に寄与するものとして政令で定めるもの
2 前項各号に掲げる行為の準備を行う者(当該行為の準備のための情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆提供提示著作物について、同項の規定による軽微利用の準備のために必要と認められる限度において、複製若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項及び次条第二項第二号において同じ。)を行い、又はその複製物による頒布を行うことができる。ただし、当該公衆提供提示著作物の種類及び用途並びに当該複製又は頒布の部数及び当該複製、公衆送信又は頒布の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
(太字引用者)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048


主に記述のよりどころとする情報源に著作権は及ばない?

著作権法を確認してきましたが、しかしながら、『大学図書館における著作権問題Q&A』(第9版)によると、そもそも主に記述のよりどころとする情報源である「標題紙(標題紙裏を含む)、奥付、背、表紙」に、著作権は及ばない可能性が高いようです。

ただし、表紙は要注意。

 書名は、法的には「題号」と呼ばれています。著作者が題号の決定に際して相当の創意工夫を行うことは想像に難くありませんが、一般に、題号に財産権としての著作権は及ばないとされています。
 また、多くの場合、表紙の書名や著者名などは、よりインパクトを与えるようにデザインされており、そのようなデザインが保護の対象にはならないと完全には言い切れないものの、相当の創作性がない限り活字のデザインや文章等のレイアウトも保護の対象にはならないとされています。
 ただし、表紙にはイラストや写真が用いられていることが多く、これらのイラストや写真は、通常の絵画や写真と同様に保護の対象になりえます。
(太字引用者)
https://julib.jp/wordpress/wp-content/uploads/2016/07/copyrightQA.pdf

おわりに

ポイントになりそうなところ。

  • 私的使用ではなく、業務使用である
  • 直接的に図書館利用者の求めに応じているわけではない
  • 情報源のスキャンデータをメール又はFAXで送付する
  • 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用で、図書館職員がもっぱら書誌調整のために必要最小限を使用している
    • 著作物の非享受利用
    • 著作物の軽微利用
    • 人手を介している
  • 主に記述のよりどころとする情報源は、「標題紙(標題紙裏を含む)、奥付、背、表紙」である
    • 著作権は及ばない可能性が高い
    • ただし、表紙は要注意

などなど、結局よくわからず、とっちらかったままです。すみません、やっつけです。いろいろと見逃し・読み落としや誤読・誤解があるかも。じつはどこかでバシッと定めてあったり、関係者間で取り決めがあったりして……。

*1:

資料を識別同定し,記録して,利用可能な状態を作り出すための手法の総称.書誌調整ともいう.通常,図書館で行われる目録作業や分類作業は,書誌コントロールの最も基本的な方法である.さらに,共通の基盤で目録規則や分類法,MARCフォーマットなどを制定したり,標準的な資料識別記号を制定したりすることによって,印刷カードやMARCデータとして標準的な書誌的記録が利用できるようになる.これにより,重複した作業が軽減されるだけでなく,広範囲で効率的な書誌情報検索と所蔵・所在調査を可能にするシステムの基盤が形成されるようになる.このように,各館における資料組織化処理から始まって,国家や国際的な規模で標準的な書誌的記録を作成し,共同利用するための仕組みに至るまでの全体を書誌コントロールという.近年,書誌コントロールの対象は,非図書資料,文書館資料,あるいは構成書誌単位へと広がっている。
書誌コントロールとは - コトバンク

*2:再延期がなければ、2020年8月3日(月)以降は、「ありました」になります。

*3:

NACSIS-CATとは、オンライン共同分担目録方式により全国規模の総合目録データベース(図書/雑誌)を形成するためのシステムです。
目録所在情報サービス │ 事業について │ NACSIS-CATとは

*4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E9%96%93%E7%9B%B8%E4%BA%92%E8%B2%B8%E5%80%9F