この記事は、klis Advent Calendar 2020 - Adventarの1日目の記事です。これが初参加です。
目次
はじめに
筑波大学情報学群知識情報・図書館学類(klis*1*2)へ2009年4月に入学し*3、4年で卒業後、2013年4月から国立大学法人の大学図書館職員(図書系職員)になりました。
そのため、ときどき「図書館が好きなんですね」「小さい頃からずっと図書館職員になりたかったんですか?」と言われます。
でも実際は明確なキャリアデザインなどなく、偶然に偶然が重なり、大学図書館職員になりました。
そこで、どういう経緯で大学図書館職員になったのか、1度まとめておこうと思いました。
ちなみに、図書館職員になりたい方は、比較的最近の本だと、『図書館情報学を学ぶ人のために』の「司書になるためには」(p.226-233)を読むといいと思います。
あと、これらは手にとったことがないのでわかりませんが、こんな本たちもあるようです。無責任。
高校時代
高校*4では数学と化学が好きで、将来は化学系の研究者になりたくて、センター試験直前は大阪大学理学部化学科志望でした。しかしながら、センター試験の結果が驚くほど悪かった*5ので、自信がなくなり、志望校を変更することに。
その際、いろいろな国立大学の赤本をパラパラと見て、合格できそうなところを探しました。たまたま筑波大学の赤本(理系)を手に取ると、理系科目で知識情報・図書館学類(klis)を受験できることがわかりました*6。
そのときに、「この際、どうにでもなれ!」と吹っ切れ、「筑波大学の赤本(理系)のなかで、自分のイメージでは1番就職できなさそう」かつ「田舎出身のため、そういえば1回も図書館に行ったことがなかった*7」という点が逆に気になり、どんなことを学ぶのか自分にはイメージしづらかった知識情報・図書館学類(klis)をあえて受験することにしました。
というわけで、それまでは化学科だけに進学するつもりでしたが、センター試験後、前期日程だけは知識情報・図書館学類(klis)を受験することに。前期日程以外は、そのまま化学系を志望しました。そのため、後期日程は、玉砕覚悟で東北大学理学部。私立大学は、早稲田大学先進理工学部と東京理科大学理学部を受験しました。
もし前期日程で知識情報・図書館学類(klis)に不合格だったら、化学な人生の可能性もあったと思います。
ちなみに、大学で図書館情報学を学びたい・研究したい方は、次の記事を大学選びの参考にしていただけるとうれしいです。
大学時代
入学直後は、もし筑波大学情報学群知識情報・図書館学類(klis)の大学生活があまりにも自分に合わなかったら仮面浪人する気でした。しかし、授業が始まってすぐ、この大学で学ぶことが思った以上におもしろいと感じ、友だちもでき*8、大学から始めたテニスも楽しかった*9ので、すぐにそのまま卒業することに決めました。
それでもやっぱり大学時代には、図書館そのものや実務には興味を持てなかったんですよね。図書館情報学は楽しいけど、図書館そのものや実務にはあんまり興味がないって感覚。とくに公共図書館系の授業には、納得できないところもあり*10。
言い方を変えるために、ちょっと図書館情報学の定義を紹介。ここでの定義は、『図書館情報学 第二版』のp.1を参照。
「図書館情報学(library and information science)」は,情報と知識の性質,情報が生まれ,伝達され,探索され,利用されるまでの過程と情報メディアとの関係,それに図書館に関わる諸問題を扱う領域である。
それで、このなかのとくに「情報と知識の性質,情報が生まれ,伝達され,探索され,利用されるまでの過程と情報メディアとの関係」を扱う領域のところが、自分は学問分野として好きって感じです。
そんなこんなで、履修登録した授業はそれなりにまじめに受講し、日頃から勉強もしていました*11。そのおかげか、3年生のときには、とくに対策もしてなかったんですが、初めて受験した図書館情報学検定試験で全国第1位になりました。ただし、受験者数がめちゃくちゃ少ない。問題も簡単でした。満点ではありませんが。それでもやはり1位自体はうれしかった。反面、図書館情報学を学んでいる学生の層の薄さ・絶対数の少なさを感じました。まぁ受験者数の少なさがなにより物語っていますよね。
あと、いつからか教養*12を追い求めていました。1つの学問分野を極めるスペシャリストではなく、教養のあるジェネラリストになりたくて。高校生のときにはスペシャリストである化学系の研究者になりたかったのに、大学生のときにはいつの間にか教養のあるジェネラリスト志向に。もちろん、スペシャリストであっても、教養を追い求めることはできるとは思うのですが。
そして、今でも教養を身につけたいと思っているので、最近でもこんな本を読んでいます。
nekoniyume.hatenablog.com nekoniyume.hatenablog.com
そういう意味で、知識情報・図書館学類(klis)で図書館情報学を学べたのはよかったかなと。まず、いろいろな学問分野を自分で学んでいくための情報探索の方法を学べたのが大きいです。つまり、自分で調べる方法、自分で自分を教育する方法を学べました。そして、統計学や情報数学などの数学、プログラミング演習などのコンピューターサイエンスで論理的な思考の練習ができたり、他にもパッと思い出せる範囲ですが、図書館情報学に関わる範囲で基礎的・初歩的な哲学、法学、社会学、経済学、経営学などにも触れられました。教養のあるジェネラリストになりたい自分にとってはよかったと思います。
そんな自分にとっておもしろかった授業を3つ紹介します。
- 知識情報概論
- 石井啓豊先生
- 2009年度受講
総合科学としての図書館情報学の全体像を概説し、知識情報学への発展における基礎的な視点について論じる(2009年度シラバスより)
- 【感想】何を言っているのかほとんど理解できなかったけど、わくわく感があった。「図書館情報学の再規定による知識情報学の展望」を読むと雰囲気が伝わると思う。
- 学術メディア論
- 松林麻実子先生
- 2011年度受講
学術コミュニティを対象として、情報の生産・流通・利用に関する学術情報流通モデル、学術情報メディア等を総合的に学ぶ(2011年度シラバスより)
- 【感想】学術情報の流通がおもしろいと思った。レポートが複数回あり、フィードバックをもらえるのがよかった。
- 公共経済学
- 池内淳先生
- 2010年度受講
経済学の基礎的概念を踏まえて、図書館やインターネットなど、知識・情報を共有する公共的仕組みの特性を学ぶ。また、公共図書館における無料の原則、ネットワーク環境下の知的財産権の在り方といった現代的諸問題について、経済学的観点から検討を加える(2010年度シラバスより)
- 【感想】先生のトーク力がすごすぎる。上のシラバスに書いてあることを学んでない気がする。この年に受講した人しかわからないであろうフォークリフトの「スプロケット」。
卒業後の進路は、図書館系ではなく行政職の公務員か、民間企業か、大学院進学の3つでずっと悩んでいました。基本的にどれでも対応できるように並行して対策をしていました。3年生のときには、公務員試験の模試をペースメーカーに独学で公務員試験の勉強もしたし、民間企業では数社ですが短期インターンシップ・OB訪問・説明会に参加したり、就活生向け情報はいいことしか書いてないので有価証券報告書をはじめとしたIR資料を読んだりもしたし、他大学を含め3つの大学院進学説明会にも行きました。進路迷子ですね。
4年生にあがるころに、とりあえず行政職の公務員を第1志望にし、国家公務員や地方上級公務員を中心に就職活動を進めました。最後まで図書館そのものや実務には興味がなかったので、国立大学法人も図書ではなく事務で受ける予定でした。しかし、たまたまある教員から、「国立大学法人くらいはせっかくだし図書で受験してみたら?」と言われ、受験しました。
話がそれますが、誤解を恐れずに言えば、自分にとって就職先は食えればどこでもよくて*13。当然、人それぞれある程度の向き・不向きはあるだろうけど、極端に言えば、適職・天職なんてやってみるまでわからないという考えでした。縁があったところで全力を尽くせば、道は開けるだろうと構えていました。
例えば、最近ではこのネット記事が参考になります*14。
ある仕事を続けられるかどうかは、大半は「運」のようなものです。たまたま環境に恵まれ、たまたま自分が必要とされ、たまたまあなたを必要とする人たちから物心両方のリターンが納得いくレベルで得られるなら、その関係は持続可能でしょう
9割の人が知らない「仕事選びでやりたいことを優先しない」ほうがいい理由 | 独学大全 | ダイヤモンド・オンライン
つまり行動の結果、良きリターンが得られれば、その行動は強化され、さらに次の結果が生まれます。やる気とは、こうした行動と結果のよい循環から生じるのです。意外に思われるかもしれませんが、こうした理由から、まともなキャリア教育は、その人の「やりたいこと」を軸にしません。社会には普通の人がやりたいと思うこと以外にもたくさんの必要な仕事があり、また生きていくための様々な方法があります
9割の人が知らない「仕事選びでやりたいことを優先しない」ほうがいい理由 | 独学大全 | ダイヤモンド・オンライン
さらに話がそれますが、キャリアデザインという言葉があまり好きではありません。正直、「キャリアなんてデザインできるのか?」と思っています。自分が生まれたとき、すなわち約30年前には、GoogleやAmazon、スマホもない時代。今やそれらが当たり前。つまり、今はまだない仕事がどんどんでてきたり、今まであった仕事がやがて廃れていったり。
筑波大学のブランドスローガン「IMAGINE THE FUTURE.」は、ブランディングとしてはいいと思います*15*16*17。しかし、30年、40年先の未来のこと、自分が定年を迎えるときの未来なんて「正確には」想像できない。だから、ある程度の方向さえ決めたら、あとは今その瞬間に全力を尽くせばいいのではないかという柔軟なスタンス。そうすれば、結果として多少なりとも、自分で「未来を「創造」する」(CREATE THE FUTURE.)こともできるのではないかと*18。自分は、「計画された偶発性理論*19」という考え方が好きで、好奇心、粘り強さ、柔軟性、楽観性、冒険心などのしなやかな強さが重要だと思っています。
そもそもキャリアは、デザインするものではなくて、あとからついてくるもの(わだち)だろうと。
閑話休題。それで話を戻すと、今の職場にいざ機関訪問に行くと、全体の雰囲気が今まで見てきた組織のなかで1番明るく、案内してくれた先輩職員の方がとてもいきいきと働いており、自分もここで一緒に働きたいと思いました。そこから今の職場を第1志望にしました。地方上級公務員などの選考も進んでいたので、もし機関訪問に参加せず、その雰囲気や先輩職員に出会わなかったら、行政職に進んでいたと思います。
何をするかよりも、誰とするか。仕事内容よりも、そこで一緒に働く人たち。それを大切にした決断でした。
次の資料のp.16-17に、その先輩の仕事紹介インタビューが掲載されています。雰囲気が感じられるかと思います。
あ、そういえば、図書館系ではもう1つ、国立国会図書館を受験していました。
ショクダイオオコンニャクの花を見た後、そのまま国立国会図書館の採用試験を受けたのは、僕が史上初だと思う!
— 猫に夢(OKAZAKI Satoshi) (@nekoniyume) 2012年5月26日
ちなみに、国立国会図書館に就職したい方は、次の記事に過去問をまとめているので参考にしていただけるとうれしいです。
おわりに
というわけで、小さなころからずっと図書館で働きたかったわけではなく、偶然に偶然が重なり、就職活動の最後の方で大学図書館職員、より正確には今の職場に興味を持ち、運よく働くことができました。
あー、↑こんな感じで他の方の「図書館職員になるまで」も知りたい。いろんなバックボーンを持った人がいるんだろうな。
ハッシュタグ「#図書館職員になるまで」、流行らせたい。この記事を書いている時点では、Twitterだと0件。
https://twitter.com/search?q=%23%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%BE%E3%81%A7&src=typed_querytwitter.com
ちなみに、この記事やハッシュタグでは、『図書館情報学用語辞典 第5版』の解説にもとづき、図書館に勤務する専門的職員を意味する場合がある「図書館員」(librarian)ではなく、図書館で働いているすべての職員の総称である「図書館職員」(library staff)という用語をあえて使っています。
- 図書館員(読み)としょかんいん(英語表記)librarian
本来は図書館に勤務する専門的職員を意味するが,図書館に働くすべての職員を指して用いられることもある.公共図書館には専門的職員である司書と司書補のほかにも職員がおり,利用者にとっては区別がつかないばかりか,図書館に働くすべての職員が同様の役割を果たすことが求められたということが,広義の解釈の背景となっている.「図書館員」を,図書館に働くすべての職員という意味で意識的に使用した例として,1980(昭和55)年に制定された日本図書館協会の「図書館員の倫理綱領」と,同綱領の解説がある.
- 図書館員(としょかんいん)とは? 意味や使い方 - コトバンク
- 図書館職員(読み)としょかんしょくいん(英語表記)library staff
図書館で働いているすべての職員の総称.図書館員ともいう.専任職員のほかに臨時職員,嘱託職員,派遣職員などさまざまな身分の人がいる.公共図書館の場合,専任職員の中にも,司書,事務職員,技術職員などがいる.図書館の管理と運営は,すべての図書館職員の協力によって行われているが,専門職としての基礎教育を受け,図書館現場での経験を積み,不断に自己研修に努めている司書が,主に資料の収集,組織化,保存,提供といった一連の仕事をしている.しかし,十分な人員が確保できない図書館では,これらの仕事を他の職種の職員が行っている場合もある.
- 図書館職員(としょかんしょくいん)とは? 意味や使い方 - コトバンク
個人的には「図書館員」よりも「図書館職員」の方が好きで、自分の職業を紹介するときには「大学図書館職員」と名乗ります。なんでだろう、「図書館職員」である前に「大学職員」であることに自覚的になるためかな。「大学職員」とは言いますが、「大学員」とは言わないので。
*1:読みは、「けーりす」。
*2:あれ? klisって「Knowledge, Library and Information Science」で、学類名の頭文字だったよね? って思って、念のため、知識情報・図書館学類のWebサイトを確認。たしかに、ドメインは「klis.tsukuba.ac.jp」でした。でも、フッターのコピーライトに書いてある学類の英語名は、「College of Knowledge and Library Sciences, School of Informatics, University of Tsukuba」で、頭文字をそのままつなげてもklisの並びにはならず。Webサイトでは、とくになんの略称かは記載なし。LibraryからLiをとってる? そうすれば、KLiSにはなる。klisの由来がわかる方、ぜひ教えてください。
*3:いわゆるklis09です。
*4:高校は、山口県立下関南高等学校です。女子校から共学になった4年目に入学し、そのときは1クラス40人あたりの男女比が6対34でした。
*5:正確な点数は覚えてないけど、最後の模試より120点くらい低かった。まぁ本番の結果が実力である、とあとから思う。
*6:パンフレットによると、センター試験の配点900点と前期日程の配点800点の合計。自分の場合、センター試験の科目と配点は、国語200点、数学2科目200点、英語200点、社会1科目100点、理科2科目200点の5教科7科目。前期日程の科目と配点は、数学300点、英語300点、化学200点。前期日程の数学が、他の理系学類と同じ時間にもかかわらず、大問6問中2問選択だったので、かなり余裕を持って解答できた記憶がある。
*7:そのため、私立大学受験時に訪問した国立国会図書館が生まれて初めて行った図書館です。入館したものの、利用方法がよくわからず、1冊の本も手に取らずにすぐ退館しました。まぁ利用したい資料もとくになく、後学のための見学みたいなものだったので。そもそも知識情報・図書館学類(klis)を知るまでは、国立国会図書館の存在も知らなかったくらいです。
*8:友だちには他大学医学部医学科落ちの仮面浪人の人がいたり、他にも高校まで理系で第1志望ではない人がいたり、自分同様、図書館そのものや実務に興味がない人がまわりにいたので、なじみやすかったのだと思います。もちろん図書館大好きみたいな人も一定数いたと思います。文理融合な多様性が自分にはあっていたのだと思います。
*9:筑波大学とつくば市のテニス環境はすばらしいと思います。とくにハードコートの数が多い。
*10:今思えば、それまで公共図書館に行ったことがなかったので、イメージできなかっただけかも。少なくとも自分の頭のなかには、18歳のときに国立国会図書館へ行くまで図書館はほとんど存在していなかった。
*11:本を読むようになったのは、大学1年の夏休みからです。化学から図書館情報学に文転(?)したなら、それなりに本を読まなきゃという思いから読書をするようになりました。一応、図書館情報学は文理融合ということになっていますが、自分にとっては文転です。読書に冊数は重要ではないと思いますが、大学4年間では、約1,200冊の本を買い、約300冊を読了しました。自分がどんな本を読んできたのかに興味があれば、猫に夢の蔵書目録 (猫に夢(OKAZAKI Satoshi)) - ブクログをご覧ください。
*12:好きな教養の定義はこれです。『教養の書 (単行本)』のp.125より。
【定義】われわれにとっての教養とは、「社会の担い手であることを自覚し、公共圏における議論を通じて、未来へ向けて社会を改善し存続させようとする存在」であるために必要な素養・能力(市民的器量)であり、また、己に「規矩」を課すことによってそうした素養・能力を持つ人格へと自己形成するための過程も意味する。
ここでの素養・能力には、以下のものが含まれる。①大きな座標系に位置づけられ、互いに関連づけられた豊かな知識。さりとて既存の知識を絶対視はしない健全な懐疑。②より大きな価値基準に照らして自己を相対化し、必要があれば自分の意見を変えることを厭わない闊達さ。 公共圏と私生活圏のバランスをとる柔軟性。③答えの見つからない状態に対する耐性。見通しきかない中でも、少しでもよい方向に社会を変化させることができると信じ、その方向に向かって①②を用いて努力し続けるしたたかな楽天性とコミットメント。
*13:できれば地元近くがよかったですが。
*14:最近読んで面白かった本『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』の著者である読書猿の記事です。読書ノートは、読書猿著『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』読了 - 猫に夢研究所をご覧ください。
*15:IMAGINE THE FUTURE.について - 筑波大学
*18:この1文は、「CREATE THE FUTURE.」という言葉を使うためだけに、無理やり挿入されています。